Gotanda Onpa Giken

試作開発

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トランジスタブースター(4)LPB-1の試作と計測

今回はいよいよ回路を組んでいきます。まずはブレッドボード上で確認を行います。一度基板に組んでしまうと部品の入れ替えが大変ですが、ブレッドボードならはんだ付け不要で動作確認が出来るので助かりますね。オリジナルに使用されているトランジスタ2N5133は少し入手が難しいので、同じピン配列で手元にある2N3904を使います。

LPB-1回路図
LPB-1回路図
LPB-1ブレッドボード配置図
LPB-1のブレッドボード配置図(2N3904使用)
LPB-1ブレッドボード
LPB-1をブレッドボードで組んだ所

電圧チェック

音出しの前に各部の電圧をチェックしてみます。

電源

まずは電源です。今回はTOSHIBAの充電式IMPULSEを使います。9V電池は割とお高めなので、繰り返し充電できるIMPULSEは重宝します。公称電圧は8.4Vとなっていますが、充電直後だからか9.5V出ていました。9Vの電源アダプターも実際にはこれくらい出ていることが多いですね。

簡易計算

第2回で各部の電圧を算出しましたが、これは電源電圧9Vを想定したものでした。9.5Vになると当然各部の電圧も上がると思いきや、コレクタ電圧は低下してバイアスも少しズレます。これはベース電圧が上がるとコレクタ電圧は下がるためです。

電源 \(V_{CC}\)

9V

9.5V

ベース \(V_B\)

0.818V

0.864V

エミッタ \(V_E\)

0.168V

0.214V

コレクタ \(V_C\)

4.69V

4.01V

実測値

実際にはどうなっているかテスターで計測しました。

簡易計算

2N3904実測値

ベース \(V_B\)

0.864V

0.784V

エミッタ \(V_E\)

0.214V

0.150V

コレクタ \(V_C\)

4.01V

5.80V

ベース(バイアス)の電圧は0.08V低く出ました。エミッタも0.064V低い数値です。ベース‐エミッタ間は0.634Vということで、計算に使用した0.65Vに近い値が出ました。しかし、コレクタに至っては5.80Vと、2V近く離れた数値が出ました。どういうことでしょうか。


ベース電流

実は前回までの計算ではすべてベース電流の存在を無視していました。理想的な回路ではベース電流の影響は少なくなるからです。しかしLPB-1の設計ではこのベース電流が原因で計算値と実測値のズレが生じています。試しにトランジスタを外してR1とR2の間の電圧を測ると0.864Vに近い数値が出ることからも裏付けられます。

ベース電流の計算

ベース電流が流れることで起きるベースのバイアス電圧の低下は、どのように計算すればいいでしょうか。まず、ベースをバイアスしているR1とR2をテブナン電圧\(V_{th} \)、テブナン抵抗\(R_{th} \)に置き換えます。

テブナン電圧は、R1とR2の分圧に負荷が無いときの電圧なので

\[V_{th} = 0.864V \]

テブナン抵抗は、分圧された点から、電源をGNDと等しいとして見たときの見かけの抵抗

\[R_{th} = 42.7k \Omega \]

次に、ベースから見た入力抵抗

\[R_{in(base)} \approx (\beta +1) R_E \]

となります。ここで初めて出てきた\( \beta \)ですが、これはトランジスタの電流増幅率(hFE)と同じものです。今回使っている2N3904では約200でしたので、

\[R_{in(base)} \approx (200 +1) 390 \approx 78.4k \Omega \]

となります。

次にエミッタ、コレクタ、ベースそれぞれに流れる電流の関係を考えると、

\[ I_E = I_C + I_B\]

ここで、hFEはベース電流に対するコレクタ電流の比率なので、

\[I_C \approx \beta I_B \]

代入すると、

\[ I_E \approx \beta I_B + I_B = (\beta + 1) I_B \]

つまり、エミッタ抵抗\(R_E\)に流れる電流はベース電流の約\( (\beta + 1) \)倍

\(R_E\)に生じる電圧降下は

\[ V_{RE} = I_E R_E \approx ( \beta + 1) I_B R_E \]

つまり、ベース側から見るとエミッタ抵抗は

\[ (\beta + 1)R_E \]

のように見えます。

さて、ベース電流 \(I_B\)が流れると、電圧は3箇所で消費されます。

  • \(R_{th}\)で落ちる電圧 \(I_B R_{th} \)
  • ベース-エミッタ間で落ちる電圧 \(V_{BE}\)
  • エミッタ抵抗\(R_E\)で落ちる電圧 \( (\beta + 1)I_B R_E \)

したがって、\(V_{th} \)から見ると

\[ V_{th} = I_B R_{th} + V_{BE} + (\beta + 1)I_B R_E \]

となる。これをベース電流\(I_B\)について変形すると、

\[I_B = \frac {V_{th}-V_{BE}}{R_{th}+(\beta + 1)R_{E}}\]

今回の2N3904を使った場合のベース電流\(I_B\)は

\[I_B \approx \frac {0.864-0.65}{39.1k+78.4k} = \frac {0.214} {117.5k} \approx 1.82 \mu A\]

ベース電圧\(V_B\)

\[ V_B = V_{th} - I_BR_{th} \]

\[ V_B \approx 0.864 - (1.82 \mu A)(39.1k \Omega) = 0.864 - 0.071 = 0.793V \]

エミッタ電圧\(V_E\)

\[ V_E \approx 0.793 - 0.65 = 0.143V \]

エミッタ電流\(I_E\)

\[ I_E \approx \frac {V_E}{R_E} = \frac {0.143}{390} \approx 0.367mA \]

コレクタ電流\(I_C\)

\[ I_C \approx \frac{\beta}{\beta + 1}I_E \approx 0.365mA \]

コレクタ電圧\(V_C\)

\[ V_C = 9.5 - (0.365mA)(10k\Omega)= 9.5 - 3.65 =5.85V \]

ということで、実測値の5.8Vに近い数値が出てきました。


hFEとの関係

上記の計算式から、トランジスタの入力抵抗およびベース電流はトランジスタの持つhFEによって大きく変わることが分かります。また、hFEが高いほど入力抵抗が上がり、バイアス電圧に与える影響がすくなくなります。

ではhFEの異なる他のトランジスタに差し替えてみます。海外では定番の2N5088と、日本で手に入りやすい2SC1815のランク違いを3つ用意しました。2N3904,5088(EBC)と2SC1815(ECB)では足の配列が異なるので、差し替える際は注意してください。

電圧の計測結果を表にまとめたのがこちらです。

トランジスタ

2SC1815O

2N3904

2N5088

2SC1815GR

2SC1815BL

簡易計算

hFE

120

200

335

360

540

-

\(V_{B}\)

0.755V

0.784V

0.802V

0.807V

0.820V

0.864V

\(V_{E}\)

0.124V

0.150V

0.182V

0.192V

0.216V

0.214V

\(V_{C}\)

6.44V

5.80V

4.97V

4.73V

4.13V

4.01V

hFE順に並べましたが、高いほど数値が簡易計算のものに近づくのがわかります。
今回コレクタの動作点が電源の1/2に一番近くなったのはhFEが360の2SC1815GRランクでしたが、これは電源電圧によって変わり、9Vの場合はBLランクのほうがより近くなります。

オリジナルのLPB-1に使われていた2N5133のhFEについてですが、個体差が激しいトランジスタだったようでデータシートには最低60から最大で1000という数字があります。よって個体によってはコレクタの動作点が7V近く、すぐに上側の波形がクリップしてしまうようなものもあった可能性があります。とはいえ実際にトランジスタを手に入れて計測している方々によると、hFE=200弱のものが多いようなので、再現をするなら2N3904か、2SC1815ならYランク(hFE=120~240)が良いのではないでしょうか。

トランジスタの写真
使用したトランジスタ

トランジスタごとの入力インピーダンス・カットオフ周波数

ベースから見た入力抵抗が計算できるようになったので入力インピーダンスの計算にも利用していきます。前回計算したR1, R2による入力インピーダンスと並列にあると考えれば簡単です。

例としてhFEが200の時を考えます。入力抵抗は78.4kΩなので、

\[Z_{in} = 39.1k || 78.4k \approx 26.1k \Omega \]

もともと低めだったインピーダンスがさらに下がってしまいました。これに伴ってカットオフ周波数も上がります。

\[ f_c= \frac{1}{2\pi \cdot 0.1\mu F \cdot 26.1k} \approx 61Hz \]

前回算出のカットオフ周波数40.7Hzの1.5倍になってしまいました。音名で言うと、7弦ギターの最低音であるBです。

他のトランジスタでの数値も計算してみます。

トランジスタ

2SC1815O

2N3904

2N5088

2SC1815GR

2SC1815BL

簡易計算

hFE

120

200

335

360

540

-

入力インピーダンス

21.4kΩ

26.1kΩ

30.1kΩ

30.6kΩ

33.0kΩ

39.1kΩ

カットオフ周波数

74Hz

61Hz

53Hz

52Hz

48Hz

40.7Hz

こちらも、hFEが高いほうが簡易計算の値に近づきます。


まとめ

  • LPB-1のようなシンプルな回路はトランジスタのhFEの影響が大きく出る
  • hFEが高いほうが、「電源の半分のコレクタ電圧=広いヘッドルーム」「入力インピーダンスが高い」「入力のカットオフ周波数が低い」という、フルレンジブースターとして好ましいとされる性能には近づく
  • オリジナルに使われていた2N5133はhFEが60~1000と個体差が激しい。実際には200弱が多い?
  • 性能を求めるなら高hFEのトランジスタ、ビンテージのものに近づけるならhFE=200程度のトランジスタが良い

次回はペダルに収めるにあたって回路に少し変更を加えていきます。

五反田音波技研所長R