トランジスタブースター(3)LPB-1の回路 インピーダンスとカットオフ周波数
前回のまとめ
前回はLPB-1の回路の全体的な構成や、DC動作点や増幅率の計算を行いました。
LPB-1の特徴として、
- エミッタ接地増幅回路である
- 出力は位相が反転する
- 増幅率は常に約25倍
という三点を挙げました。特に最後の増幅率については、入力信号の大きさによっては簡単に歪んでしまい、音量だけを増幅できないことがあるというLPB-1の特徴につながっています。
他にはどのような特徴があるのか見ていきます。
インピーダンス
次に入出力のインピーダンスを計算していきます。インピーダンスとは交流信号の流れにくさを表す単位ですが、オーディオ機器では「ハイ受けロー出し」というように、高い入力インピーダンス(ギターエフェクターでは理想として1MΩ前後)と低い出力インピーダンス(1Ω以下)が望ましいとされています。LPB-1の数値はどうでしょうか。
インピーダンスの計算法
- 直流電源である9Vは、交流的にはGNDと同じと考える
- コンデンサは交流を通すので、無いものとして考える
入力インピーダンス \(Z_{in}\)
入力から見て存在するものが
- 9Vにつながる \(R_1\)
- GNDにつながる\(R_2\)
- トランジスタのベース側入力抵抗 \(R_{in(base)} \)
の3つです。これらが並列に存在しているものとして計算します。
\[ Z_{in} \approx R_1 || R_2 || R_{in(base)} \]
ただし、トランジスタの入力抵抗は十分大きいものとすると無視できるので、
\[ Z_{in} \approx R_1 || R_2 \]
並列抵抗の計算は
\[ R_1 || R_2 = \frac {R_1 \cdot R_2}{R_1 + R_2} \]
LPB-1の数値を当てはめると
\[ Z_{in} \approx \frac {430k \cdot 43k}{430k + 43k} = 39.09k \Omega \]
推奨される1MΩよりもかなり低い数値になりました。公式の資料を確認すると43kΩとの記載があるので、LPB-1の入力インピーダンスはかなり低いものとして設計されているようです。入力インピーダンスが低いと音量低下と高域の劣化が起きます。LPB-1は劣化した信号が強く増幅されることで、太い・味があるという評価につながっているようです。
(現行品はおそらくバイアスに使われる抵抗が変更されて、より一般的な470kΩと47kΩが使用されているようです。470kΩと47kΩで上記の計算をすると43kΩの入力インピーダンスが求められます。)
出力インピーダンス \(Z_{out}\)
こちらもオーナーズマニュアルに記載があり、10kΩとされています。おそらくこれは最後段の可変抵抗の影響を無視し、コレクタ抵抗の10kΩという数値を使っていると思われます。実際には可変抵抗の位置で変化しますが、Max位置のときに9kΩほどになります。
詳しく見ていきましょう。出力から見ると出力インピーダンスは
- 可変抵抗の下側を通りGNDに行く経路
- 可変抵抗の上側を通りコレクタ抵抗を通って9V(交流的にGND)に行く経路
の並列になります。
したがって、
\[ Z_{out} = R_{bottom} || (R_{top} + R_C) \]
ボリューム最大の場合
- \( R_{top} = 0 \)
- \( R_{bottom} = 100k\Omega \)
なので、
\[ Z_{out} = 100k || 0 + 10k \approx 9.09k\Omega \]
中間点の場合
- \( R_{top} = 50k\Omega \)
- \( R_{bottom} = 50k\Omega \)
なので、
\[ Z_{out} = 50k || 50k + 10k \approx 27.3k\Omega \]
(LPB-1の可変抵抗はAカーブ(オーディオカーブ)なので、つまみの位置が中央のときに抵抗値が半分になるわけではありません。)
ボリューム最小の場合
- \( R_{top} = 100k\Omega \)
- \( R_{bottom} = 0\Omega \)
なので、
\[ Z_{out} = 0 || 100k + 10k = 0\Omega \]
音量ゼロでは出力点がGNDに直結されるので、出力インピーダンスもほぼ0Ωになる。
出力インピーダンスが最大になる点
\[ R_{bottom} = R_{top} + R_C\]
のときにインピーダンスは最大になるので、
- \( R_{top} = 45k\Omega \)
- \( R_{bottom} = 55k\Omega \)
なので、
\[ Z_{out} = 55k || 45k + 10k = 27.5k\Omega \]
よって、実用上出力インピーダンスは9.1kΩから約27kΩという結果になります。これもやはり理想値の1kΩに比べると高い数値が出ています。
カットオフ周波数
入力と出力のコンデンサは、インピーダンスとの組み合わせによってハイパスフィルタを形成します。低域がどこからカットされるか見ていきます。
入力のカットオフ周波数
信号が3dB低下するカットオフ周波数 \(f_c\)を求める式は、
\[ f_c = \frac {1}{2 \pi RC} \]
ここに
- \( R = Z_{in} = 39.09k\Omega \)
- \( C = 0.1 \mu F \)
を代入すると
\[ f_c = \frac{1}{2 \pi \cdot 39090 \cdot 0.1 \times 10 ^{-6}} \approx 40.7Hz \]
カットオフ周波数は約41Hzで、これはベースの最低音であるE1とほぼ同じ周波数です。グラフを見ると、ギターは最低音付近を除いてほぼ影響はないですが、ベース(特に5弦ベース)だと低域に大きな影響があることが分かります。

出力のカットオフ周波数
同じように出力のカットオフ周波数を求めますが、こちらはRに後ろにつなぐ機器の入力インピーダンスを含めます。次段の入力インピーダンスが1MΩと仮定すると、
\[ f_c = \frac{1}{2 \pi \cdot (10 \times 10^3 + 1 \times 10^ 6) \cdot 0.1 \times 10 ^{-6}} \approx 1.58Hz \]
次の段の入力インピーダンスが十分に高ければ、出力では音への影響が無いことが分かります。
LPB-1:まとめ
では、前回記事を含めたここまでの情報をまとめていきます。
エミッタ接地増幅回路である
LPB-1はトランジスタ1つを使った、シンプルなエミッタ接地増幅回路です。
出力は位相が反転する
出力信号の位相は、入力から反転されています。単体では音には全く影響ありませんが、信号をスプリットして片方だけLPB-1を通し、またミックスするような場合は位相が打ち消し合う可能性があります。
増幅率は常に約25倍
Boostノブは実際には増幅後にボリュームを通すことで音量を調節しているため、入力信号が大きすぎると歪んでしまう可能性があります。その場合Boostノブを下げても歪んだ音の音量が下がるだけです。
入力インピーダンスは約39kΩ
理想とされる1MΩよりも低く、音量低下・高域劣化の原因になっています。一方、それがLPB-1の太く味のあるブーストという評価につながっている可能性もあります。
出力インピーダンスは約9k~27kΩ
こちらも理想的な数値よりも高いです。結果的に後ろにつなぐ機材にも影響を受けやすくなっています。
入力のカットオフ周波数は約41Hz
ギター(レギュラーチューニングの場合)の最低音は約82Hzなので、最低音付近を除けば影響の少ないカットオフ周波数。ただし、ダウンチューニング、7・8弦ギターやベースでは低域が削れる可能性が高い。
次回
さて、今回まで行ってきた分析は簡易的なものであり、計算を簡単にするために無視した要素があります。次回は実際に回路を組んで今回算出した数値とどれくらいの差が出るのか調べていきます。
五反田音波技研所長R