トランジスタブースター(2)LPB-1の回路 バイアス、DC動作点と増幅率
前回に続き、Electro-Harmonix LPB-1についての記事です。今回は回路分析を行っていきます。
トランジスタ1つ、コンデンサ2つ、抵抗4つと可変抵抗のみで構成されたシンプルな回路です。このような回路はエミッタ接地増幅回路と呼ばれています。
部品ごとの役割
それぞれの部品がどのような役割を持っているか見ていきましょう
- C1 カップリングコンデンサ。ギターや前段のエフェクターから来る入力の直流成分をブロックし、音となる交流成分のみを通す役割です。
- R1・R2 バイアス抵抗。電源の9Vを分圧して信号にのせるバイアス電圧を作っています。
- Q1 バイポーラトランジスタがこの回路の主役です。エミッタ、ベース、コレクタと呼ばれる3本の端子を持ち、ベース-エミッタ間の電流の変化が、エミッタ‐コレクタ間に増幅されて現れることで信号の増幅を行います。
- R3 コレクタ抵抗。コレクタの電流の変化を電圧の変化に変換して、信号として取り出せるようにしています。回路分析では\(R_C \)とも。
- R4 エミッタ抵抗。動作点を安定させ、トランジスタの個体差や温度変化に強くします。コレクタ抵抗とともに増幅率を決めています。\(R_E \)とも。
- C2 C1と同じように直流をブロックして、出力が交流成分のみになるようにしています。
- VR1 出力の信号を分圧することで音量調節を行います。
信号の流れ
入力から来た信号は、
- C1で直流成分が取り除かれ交流成分のみになる。信号は0Vを中心にして上下に振れる。
- バイアス電圧がプラスされる。信号の中心がバイアス電圧にシフト。
- ベース端子に入った信号がトランジスタで増幅され、コレクタ端子に現れる。
- C2で信号から直流成分が取り除かれ、0Vを中心とした波に戻る。
- 可変抵抗で音量が抑えられる。
という流れで出力に向かいます。ここでわかるように、Boostと書かれているノブは実際には増幅された後の音量を下げる役割をもっていて、増幅率自体は常に一定です。
バイアスとDC動作点の計算
各部の電圧がどうなっているか見ていきます。
ベース電圧 \(V_B \)
ベース電圧は電源電圧である9VをR1とR2で分圧することで生み出されています。
\[ V_B=V_{CC}\cdot\frac{R_2}{R1+R2} \]
LPB-1の回路では、
\[ V_B=9V \cdot \frac{43k}{430k+43k}\approx 0.818V \]
エミッタ電圧 \(V_E \)
ベース‐エミッタにはダイオード接合があり、0.6~0.7Vの電圧降下 \( V_{BE} \)が起きるので、
\[ V_E = V_B - V_{BE} \]
\( V_{BE} \)を0.65Vと置くと、
\[ V_E \approx 0.818V - 0.65V \approx 0.168V \]
エミッタ電流 \(I_E \)
オームの法則により、
\[ I_E = \frac{V_E}{R_E} \]
\[ I_E \approx \frac {0.168V} {390} \approx 0.431mA \]
コレクタ電流 \(I_C \)
ベース電流を無視するとエミッタ電流と等しいので
\[ I_C \approx 0.431mA \]
コレクタ電圧 \(V_C \)
電源電圧からコレクタ抵抗での電圧低下分を引いたもの。すなわち
\[ V_C = V_{CC} - I_C \cdot R_C \]
\[ V_C \approx 9V - 0.431mA \cdot 10k = 9V - 4.31V \approx 4.69V \]
コレクタの動作点が電源電圧の1/2のときにもっともクリーンに増幅できる(波形がクリップされない)ので、4.69Vというのはほぼ理想的な数値になっています。
トランジスタによる増幅
トランジスタでは、ベースからエミッタへ小さな電流が流れます。この小さなベース信号によって、コレクタ‐エミッタ間に流れる電流が制御される。さらに、その電流変化が電圧変化として現れるため、ベースに入力された信号がコレクタ側に増幅されて現れたように見える。これがトランジスタによる増幅の概略です。
増幅率の計算方法
- まず、 電圧増幅率\(A_v\)は、出力電圧の変化\(\Delta v_{out} \)を入力電圧の変化\(\Delta v_{in} \)で割ったものと言えます。
\[ Av = \frac{\Delta v_{out}}{\Delta v_{in}} \]
∆は変化分という意味です。 - はじめにベースに入った信号による電圧変化はほぼそのままエミッタにも現れます。
\[ \Delta v_{in} \approx \Delta v_e \] - エミッタ電流の変化は、オームの法則によりエミッタ電圧の変化をエミッタ抵抗で割ることで求められるので、
\[ \Delta i_e = \frac {\Delta v_e}{R_E} \]
よって 2. より
\[ \Delta i_e \approx \frac {\Delta v_{in}}{R_E} \]
- エミッタ電流はコレクタ電流とベース電流の和ですが、ベース電流は小さいので無視すると、
\[ \Delta i_c \approx \Delta i_e \]3. より
\[ \Delta i_c \approx \frac{\Delta v_{in}}{R_E} \] - コレクタ電圧の変化は、コレクタ電流の変化がコレクタ抵抗を流れることで起きます。
\[\Delta v_{out} = - \Delta i_c \cdot R_c \]
(マイナスがつくのは、電流が増えるとコレクタ電圧が低下するため。) - 4.を5.に代入すると、
\[ \Delta v_{out} = - (\frac{\Delta v_{in}}{R_E} )\cdot R_C = -\frac{R_C}{R_E}\cdot \Delta v_{in} \] - 変形して
\[ A_v = \frac {\Delta v_{out}}{\Delta v_{in}} = - \frac {R_C}{R_E} \]
マイナスは位相が反転していることを表しているため、増幅率は\({R_C}/{R_E} \)で表せることがわかります。ここでLPB-1の数値を確認すると、\( 10k / 390 =25.641 \)と、25倍以上の増幅を行っている事がわかります。(デシベルに直すと約28dB)

まとめ
ではここまでの情報をまとめていきます。
エミッタ接地増幅回路である
LPB-1はトランジスタ1つを使った、シンプルなエミッタ接地増幅回路です。
出力は位相が反転する
出力信号の位相は、入力から反転されています。単体では音には全く影響ありませんが、信号をスプリットして片方だけLPB-1を通し、またミックスするような場合は位相が打ち消し合う可能性があります。
増幅率は常に約25倍
Boostノブは実際には増幅後にボリュームを通すことで音量を調節しているため、入力信号が大きすぎると歪んでしまう可能性があります。一度歪んでしまうとBoostノブを下げても歪んだ音の音量が下がるだけです。
黎明期に登場しただけあって、LPB-1はシンプルですが性能に癖のあるブースターと言えるのでは無いでしょうか。特に増幅率を変更できず常に25倍というのは、入力によってはすぐに歪んでしまい音量だけアップさせることができません。現代的な高出力ピックアップで使うとすぐに歪んでしまい使いにくいかもしれません。
次回
次回は、LPB-1の音色に直接関係してくる「入出力のインピーダンスと」、「カットオフ周波数」についてです。
五反田音波技研所長R