Electra Distortionとハードクリッピング(2)回路解析 コレクタ帰還バイアスと増幅率
今回はElectra Distortionの回路分析です。

ネット上で見つかる回路図の一つをベースに起こした回路図がこちらです。使用されている部品はトランジスタ1つ、コンデンサ2つ、抵抗3つとダイオード2つ、最後にボリュームです。回路図によっては最後のA100kΩのボリュームがなかったり、使用されている抵抗値・容量値が異なります。
こちらの回路、核となる部分が同じエミッタ接地増幅回路なので、以前のプロジェクトで扱ったLPB-1の回路と似ています。
異なっているのは
- 各部の値
- 分圧によりバイアスを作っていた抵抗2つの代わりにコレクタ-ベース間に2.2MΩ
- 2本のダイオード
の三点です。回路のトポロジーに着目すると下の2点だけです。
部品ごとの役割
それぞれの部品がどのような役割を持っているか簡単に説明すると、
- C1 カップリングコンデンサ。ギターや前段のエフェクターから来る入力の直流成分をブロックし、音となる交流成分のみを通す。
- R1 コレクタ帰還によって自己安定化するバイアスを作る。\(R_{fb}\)とも。
- Q1 バイポーラトランジスタ。エミッタ接地増幅回路の核となり、信号を増幅する。2N3904以外も使われる。
- R2 コレクタ抵抗。コレクタの電流の変化を電圧の変化に変換して、信号として取り出せるようにする。\(R_C\)
- R3 エミッタ抵抗。トランジスタの個体差や温度変化に強くする。また、コレクタ抵抗とともに増幅率を決める役割。\(R_E\)
- C2 C1と同じように直流をブロックして、出力が交流成分のみになるようにする。
- D1, D2 クリッピングダイオード。一定以上の電圧になるとダイオードが導通し、電流をGNDへ逃がすことで波形のピークをクリップする。1N4148や1N34Aなど
- RV1 出力の信号を分圧して音量調整を行う。
といった感じです。大部分はLPB-1と同じですね。
増幅の仕組み
トランジスタのエミッタ接地増幅回路の基本動作はざっくりいうと、
- 入力信号によりベース電圧上昇
- \(V_{BE} = V_B - V_E\) 増加
- コレクタ電流増加
- コレクタ抵抗での電圧降下量が上昇
- コレクタ電圧低下
です。(ベース電圧が低下したときはこの逆が起きる)
ベース電圧の上昇 → \(V_{BE}\)の増加
トランジスタのベース電圧が入力信号によって変化すると、ベース電圧とエミッタ電圧の差である\(V_{BE}\)が変化します。これはベース電圧の変化量に対してエミッタ電圧の変化量が小さいためです。
\(V_{BE}\)の増加 → コレクタ電流の増加
トランジスタでは\(V_{BE}\)がわずかに変化するだけでコレクタ電流が大きく変化します。\(V_{BE}\)が大きくなった場合、エミッタからベースへ電子が入りやすくなり、ベースへ入った電子の大部分はベースを通過してコレクタに回収されます。「電子の移動量増加=電流の増加」なので、コレクタ電流が増加します。(ただし、電子の移動方向と電流の向きは逆)
コレクタ電流の増加 → コレクタ抵抗での電圧降下が増加
コレクタ電流がコレクタ抵抗を通るため、電圧降下が起きます。ここで、オームの法則により電流が増えることで電圧降下も増加するのがポイントです。
コレクタ抵抗での電圧降下が増加 → コレクタ電圧の低下
コレクタ電圧は電源電圧\(V_{CC}\)からコレクタ抵抗での電圧降下を引いたものです。(\(V_C = V_{CC} - I_C R_C\))。よって電圧降下が増えるとコレクタ電圧が下がります。
適切な動作点と回路定数に設定すると、このコレクタ電圧の低下量が最初のベース電圧の上昇量よりも大きくなり、信号の増幅ができるというのがエミッタ接地増幅回路の仕組みです。つまり、トランジスタが入力の電圧変化を電流変化に変換し、コレクタ抵抗がその電流変化を再び電圧変化へ変換することで増幅が行われます。
コレクタ帰還バイアス
入力信号がない時のDC動作点を考えてみましょう。ちょっと複雑ですが、未知の値である電流や電圧を、既知の\(V_{CC}\)や各部の抵抗値、トランジスタのβ(=hFE)に置き換えていきます。まずは既知の式を挙げてみます。
ベース電流\(I_B\)を求める式
コレクタからベースへ\(R_{fb}\)があると、コレクタの電圧がベースの電流に影響します。帰還抵抗を流れるベース電流は、
\[I_B=\frac{V_C-V_B}{R_{fb}}\]
で求められます。
エミッタ電圧\(V_E\)の式
エミッタ抵抗があるので
\[V_E=I_ER_E\]
\(I_E\)は\(I_C\)と\(I_B\)を足したものなので
\[V_E =(I_C + I_B)R_E \]
さらに、コレクタ電流はベース電流のβ倍になるため、
\[V_E =(\beta I_B + I_B)R_E \]
変形して
\[V_E=(\beta + 1)I_B R_E\]
ベース電圧\(V_B\)の式
ベースとエミッタの電圧差から、
\[V_B = V_E + V_{BE} \]
先ほど求めた\(V_E\)の式を置き換えると
\[V_B = (\beta + 1)I_B R_E + V_{BE} \]
コレクタ電圧\(V_C\)の式
コレクタ電圧は電源\(V_{CC}\)からコレクタ抵抗での電圧降下分を引いたもの。
コレクタ抵抗にはコレクタ電流\(I_C\)とベース電流\(I_B\)の両方が流れるので、
\[I_C + I_B = \beta I_B + I_B =(\beta + 1)I_B \]
コレクタ抵抗での電圧降下は 抵抗\( \times \)流れる電流 なのでコレクタ電圧の式は
\[V_C = V_{CC} - (\beta + 1)I_BR_C \]
ベース電圧とコレクタ電圧を置き換える
\[I_B=\frac{V_C-V_B}{R_{fb}}\]
内のそれぞれを置き換えると
\[I_B=\frac{V_{CC} - (\beta + 1)I_BR_C-(\beta + 1)I_B R_E - V_{BE}}{R_{fb}}\]
整理すると、
\[I_B=\frac{V_{CC}-V_{BE}}{R_{fb}+(\beta+1)(R_C+R_E)}\]
ベース電流
これで全て既知の値となり、ベース電流を求めることができるようになりました。
ここではβ=100, \(V_{BE}\)=0.65Vとします。すると、
\[I_B = \frac{9V - 0.65V}{2.2M \Omega + (100 + 1)(47k\Omega + 680\Omega)}\]
\[I_B \approx 1.19 \mu A\]
コレクタ電流
コレクタ電流はベース電流のβ倍なので、
\[I_C = \beta I_B \approx 119 \mu A\]
エミッタ電流
エミッタ電流はコレクタ電流とベース電流の和なので、
\[I_E = I_C + I_B \approx 120.19 \mu A\]
エミッタ電圧
\[V_E = I_ER_E = 120.19\mu A \cdot 680 \Omega \approx 0.0817V\]
ベース電圧
\[V_B = V_E + V_{BE} = 0.0817V + 0.65V \approx 0.732V\]
コレクタ電圧
最後にコレクタ電圧です。
\[V_C = V_{CC} - (I_C + I_B) \cdot R_C\approx 9V - 120.19 \mu A \cdot 47k\Omega \approx 3.35V\]
出力信号は3.35V付近を中心に振れるということがわかります。9Vの中心である4.5Vからは少し外れていますね。
負帰還(ネガティブフィードバック)とは?
さて、Electra DistortionではLPB-1のような抵抗の分圧によるバイアス回路がなくても、\(R_{fb}\)を通してコレクタからベースに電流が供給されることで動作点が決まりました。
同時に、\(R_{fb}\)によってコレクタとベースが接続されているために、コレクタ電圧の変化がベース側へも戻されるという特徴を持っています。しかもこの変化にはもともとの変化を打ち消すという働きがあります。この仕組みを負帰還(Negative Feedback)と呼びます。
ギターからの信号によってベース電圧がプラスの方向へ動き、ベース電流が増加したとします。
ベース電流↑
コレクタ電流はベース電流のβ倍なので
コレクタ電流↑
コレクタ電流が上がったことでコレクタ抵抗での電圧降下が増えるので
コレクタ電圧↓
それによってコレクタ電圧とベース電圧の差が減少、
\(R_{fb}\)を通じてベースへ供給される電流↓
ということでで最初のベース電流の増加が\(R_{fb}\)経由のベースへの電流供給の低下を起こすという関係になっています。Electraでは、この負帰還によってベース電流やコレクタ電流の変化が抑えられ、トランジスタの動作点が安定する方向に働きます。
増幅率
Electra DistortionもLPB-1と増幅率の基本的な考えは共通していて、単純化すると\(R_E\)と\(R_C\)の比で表せます。回路図の値だと、
\[A_v\approx-\frac{R_C}{R_E}=-\frac{47k \Omega}{680 \Omega} \approx -69\]
なので、69倍。デシベル換算でいうとだいたい+36.8dBです(-は位相の反転を表します)。LPB-1の増幅率である25倍と比較してもかなり大きいですね。ただし、これは単純化された式なので、正確な値を求める場合はトランジスタ内部のエミッタ抵抗\(r_e\)を考慮する必要があります。
\(r_e\)は熱電圧\(V_T\)とエミッタ電流から求めることができます。
\[r_e \approx \frac{V_T}{I_E} \]
この熱電圧は室温では約26mVときまっているのでこの回路の\(r_e\)は、
\[r_e \approx \frac{26mV}{120.19 \mu A} \approx 217\Omega \]
この\(r_e\)を\(R_E\)に加えたものが、より正確な増幅率を導くことができる式です。計算すると
\[A_v\approx-\frac{R_C}{R_E + r_e}=\frac{47k\Omega}{680\Omega + 217\Omega} \approx -52.4\]
ということで少し下がりました。こちらの方が69倍よりも現実に近い数字ですが、これもあくまで近似であり、実際のゲインはさまざまな要因によってさらに低下します。(ちなみにLPB-1も同様の方法でより正確な増幅率を求めることができます)
まとめ
長くなった上に計算ばかりでしたがまとめです。
- Electra DistortionはLPB-1と同じくエミッタ接地増幅回路だが、ベースへのバイアス電流の供給方法が異なる
- 負帰還はもともとの変化を打ち消す方向に働く仕組みで、動作点の安定に貢献している
- 増幅率はLPB-1よりも大きい
次回はクリッピングダイオードの役割についてです。
五反田音波技研所長 R